靴底がボロボロに崩れる「加水分解」とは?原因・修理・予防策を靴屋が解説
「すみません、ちょっと見ていただけますか……靴がこんなことになってしまって」
「あらまあ、靴のソールがボロボロに崩れてしまっていますねぇ。」
「歩いていたら急に足元に違和感があって。見てみたらこんな状態で。まだ数回しか履いていないのに……」
「それは驚かれましたよね。でも実は、こういうケースはよくあるんですよ。これは加水分解という現象なんです」
「加水分解?数回しか履いていない靴なのに」
「そうなんです。実は、履かずに保管していてもこうなるんです。」
こんな経験をあなたもしたことはありませんか?
今回はソールの加水分解について、原因から予防策まで解説いたします。
◆靴底(ソール)の加水分解とは?

加水分解とは、読んで字のごとく「素材に水分が加わることによって分解されてしまう化学反応」のことです。
靴のソールには、軽量で衝撃吸収性に優れたポリウレタン(以下PU)という素材が広く使われています。このPUソールが、時間の経過とともにボロボロと崩れていく現象。それが加水分解です。
なぜそんなことが起きるのですか?
ポリウレタンは、製造された瞬間から空気中の水分や湿気を少しずつ吸収し続けています。
その水分が経年劣化に拍車をかけます。やがてソールはひび割れ、崩れ、最終的にはボロボロと剥がれ落ちてしまうのです。
でも、私の靴はほとんど履いていないのですが…。
残念ながら、PUソールは使用頻度にかかわらず劣化が進みます。
「あまり履かないように大切にしていた」「箱に入れてずっと保管していた」そんな靴でも、加水分解は容赦なく進行します。一度も履いていない新品同様の靴でさえ、製造から年月が経てば劣化は進行します。
◆加水分解したソールは修理できるのか?

大体の靴は加水分解したソールでも修理は可能です。
ただし、修理する場合は、以下の点にご留意してください。
■修理方法は「オールソール」一択
加水分解したPUソールは、素材そのものが内部から崩壊している状態です。そのため、亀裂の入った部分に接着剤を流し込んで補修する、といった部分的な修理はできません。
修理する場合は、ソールを丸ごと新しいものに交換する「オールソール修理」になります。
■まずは購入店でメーカー修理の可否を確認
オールソール修理を検討する際、まず確認していただきたいのがショップやメーカーでの修理対応です。メーカー修理であれば、純正のソールで交換できるため、もとの履き心地や見栄えをそのまま再現することができます。愛着のある靴をできるだけ元の状態に近い形で直したいなら、メーカー修理が最善の選択です。
ただし、残念なことに、多くのショップやメーカーでは修理対応を行っていないのが現状です。 その場合は次のステップに進みましょう。
■靴修理店に依頼する場合
メーカー修理ができない場合は、靴修理店へのオールソール修理という選択肢があります。
ただし、靴修理店では純正のPUソールを使用することができないため、代わりにEVA素材や合成ゴムといった素材でのソール交換となります。
これらの素材は経年劣化に強いのですが、PU特有の良さはありません。具体的には以下の通りです。
- クッション性が低下する場合がある
- ソールの屈曲性が低下する場合がある
- 靴が重くなる場合がある
PUの最大の魅力は、その軽さ・屈曲性・クッション性の高さです。靴修理店での修理後も十分に履き続けることはできますが、「修理前と全く同じ履き心地」を期待してしまうと、ギャップを感じてしまうかもしれません。
◆ポリウレタンソールを長持ちさせるには?
加水分解は完全に防ぐことはできませんが、正しい保管方法を心がけることで、劣化を遅らせることは可能です。
まず覚えておいていただきたいのは、PUソールは湿気が多い環境での長期保管が最も劣化を加速させるという点です。日本のように高温多湿な気候では、特に梅雨から夏にかけて注意が必要です。大切な靴を少しでも長く履き続けるために、以下のポイントを意識してください。
■こまめに履くこと
「大切だからこそ、あまり履かずにとっておく」その気持ちはよくわかります。しかし実は、履かずに保管し続けることが、加水分解を早める原因のひとつです。
ただし、こまめに履くといっても、同じ靴を毎日履き続けることはおすすめしません。 人の足は1日にコップ1杯以上の汗をかくと言われています。その汗が靴の内部にこもったまま翌日も履いてしまうと、靴内は常に高湿度状態になり、雑菌が繁殖しやすくなります。
理想は、2〜3足をローテーションしながら履くこと。 1日履いたら最低でも1〜2日は休ませて、内部の湿気をしっかり乾燥させてあげましょう。脱いだあとに木製のシューキーパー(シューツリー)を入れておくと尚良いです。
シューツリーは靴の型崩れを防ぎ、木の吸湿効果によって靴内部の湿気を吸い取ってくれます。プラスチック製のシューキーパーでも型崩れ防止にはなりますが、吸湿効果を求めるのならシューツリーがお勧めです。
特にシダー素材(杉・ヒノキなどの針葉樹)のシューツリーは、吸湿性に加えて防虫・防臭・防菌効果があると言われています。
■靴箱に入れて保管しない
靴箱に入れて保管している方も多いと思いますが、密閉した箱の中は湿気がこもりやすい環境です。
靴箱に入れて保管することはお勧めしません。
■下駄箱で保管する場合は、可能であれば扉を開けておく
下駄箱も、扉を閉め切っていると湿気がたまりやすい密閉空間になってしまいます。引き戸タイプの下駄箱であれば、常に開けっ放しにしておくと良いです。
開き戸タイプの下駄箱の場合、常に開けっ放しにするのは難しいと思いますが、定期的に扉を全開にして換気するだけでも良いかと思います。除湿剤を入れるのも良いです。
また、オープンタイプのシューズボックスやシューズラックもおすすめです。扉がないため常に空気が循環し、湿気がこもる心配がありません。
ちなみに私は、クロシオのオープンタイプシューズボックスを使用しています。リーズナブルで、組み立ても簡単なので、コスパを重視する方にはおすすめです。
◆修理できる場合、料金と納期は?
オールソール修理の費用と時間はどのぐらいですか?
目安としては、料金は最低でも1万円弱、納期は最低でも1か月程度です。
えーーーそんなにするのですか!!
はい、材料費や作業の手間を考えると、決して高くない金額なんです。
使用するソール材や、靴とソールの接合方法によって金額は変わりますが、参考までに大手靴修理チェーン店・ミスターミニットさんでのニューバランスのオールソール修理は、税込13,200円・納期5週間程度〜となっています(2025年10月現在)。
また、特殊なソール形状の靴は、通常のソールに比べて修理が複雑になるため、料金がさらに高くなるケースがほとんどです。場合によっては、作業の難易度が高すぎるとして、断られてしまうこともあります。
このように、オールソール修理は費用も時間もそれなりにかかります。そのため、修理費用よりも新しい靴を購入した方が安いというケースもあります。
それでも、「この靴でないとダメだ」という強い愛着がある方は、修理を検討する十分な価値があります。費用と愛着を天秤にかけながら、ご自身にとってベストな選択をしてみてください。
◆ウレタンソールはメリットも豊富!

ここまで加水分解というデメリットをお伝えしてきましたが、PUソールが多くの靴に採用され続けているのには、それだけの理由があります。デメリットを補って余りある、豊富なメリットがあるからです。
以下にPUソールのメリットを挙げます。
■軽量である
ポリウレタンは、ゴムや革などの素材と比べて非常に軽量です。
軽量性を追求した靴によく使われています。
■クッション性が高い
ポリウレタンは素材自体に適度な弾力があり、歩行時の衝撃をしっかり吸収してくれます。足裏や膝への負担を和らげてくれるため、長時間の立ち仕事や歩き仕事をされる方にも重宝されています。
■屈曲性が高い
ソールがしなやかに曲がるため、足の動きに自然についてきます。歩くたびにソールが足の動きを妨げないので、ストレスなく自然な歩行ができます。
■成形しやすく、デザインの自由度が高い
ポリウレタンは型に流し込んで成形できる素材のため、複雑な形状や精巧なデザインのソールを作ることができます。スポーツシューズからドレスシューズまで幅広い靴に採用されているのは、このデザインの自由度の高さも理由のひとつです。
◆技術の進歩!「加水分解しにくいPUソール」の登場!

「加水分解のメリットは分かったけれど、やっぱり劣化が怖い…加水分解しにくいPUソールはないのですか?」
「実は、あるんです! 近年は素材の配合や原料を見直すことで、耐加水分解性を飛躍的に高めたPUソールが登場しています」
私もこの「耐加水分解性」を備えたシューズを何足か愛用していますが、正しい保管とお手入れを心がけていることもあり、10年以上経過してもまったく加水分解していない靴もあります。素材技術は着実に進歩しているのです。
※絶対に加水分解しないPUソールはありません。
◆【加水分解しにくい&オールソール修理も可能】当店のおすすめ靴3選!
では、加水分解しにくいPUソールを採用し、さらにオールソール修理にも対応している、当店イチオシの靴を3つご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
■SLOW FACTORY(スローファクトリー)
国内老舗シューズメーカーであるムーンスターが手掛けるマニッシュなコンフォートシューズブランド。
シンプルで洗練されたデザインでありながら、足指周りはゆったりと、かかと周りはしっかりホールドする設計で、長時間履いても疲れにくいのが特徴です。
そして、ムーンスターが独自開発した「べステック®」というソールを採用しています。
このべステック®は加水分解しにくい素材として開発されており、従来のPUソールの弱点を克服しています。さらに、メーカーでのオールソール修理にも対応しているため、長く安心して履き続けることができます。
■Finn Comfort(フィンコンフォート)
ドイツが誇る機能性シューズブランド、Finn Comfort。外反母趾や偏平足など、足のトラブルを抱える方からも厚い支持を集めています。
その人気の核となっているのが、全モデルに標準装備された分厚いコルクのインソールです。足を包み込むようにフィットするコルクが足のアーチをしっかりとサポートし、崩れた足のバランスを自然に整えてくれます。一度履くと、その違いを足裏ではっきりと感じていただけるはずです。
多くのモデルにPUソールを採用していますが、これは純正素材によるオールソール交換が可能です。
Finn Comfort は、決して安くない靴なので、オールソール交換ができるというのは大きなメリットです。
■gute wahl(グーテヴァール)
日独共同開発のコンフォートシューズです。ドイツの整形外科靴マイスターが監修し、神戸の老舗靴メーカー「ラッキーベル株式会社」の職人たちが一足一足丁寧に仕上げています。
特筆すべきは、その揺りかご形状のロッカーソール。着地から蹴り出しまでの足の動きを自然にサポートし、足指・膝・腰への負担を効果的に軽減します。
そして嬉しいことに、gute wahl もまたメーカーでのオールソール交換が可能です。手間暇かけて作られた靴だからこそ、修理しながら長く大切に履き続けられるのは、このブランドの誠実さの表れでしょう。
◆まとめ
・加水分解とは、ポリウレタンソール特有の経年劣化現象で、空気中の水分や湿気が引き起こす化学反応のこと。使用頻度に関わらず進行するため、履いていない靴でも劣化する。
・加水分解したソールの修理は可能ですが、オールソール交換が唯一の方法です。まずは購入店でご相談を。メーカー対応不可の場合は靴修理店へ依頼することになりますが、純正素材での修理はできないため、履き心地や形状が多少変わる。
・修理費用は最低でも1万円弱、納期は最低でも1か月程度が目安。新しい靴を購入した方が安いケースもある。
・加水分解を遅らせるには、こまめに履くこと。また靴箱や下駄箱等の湿気のこもりやすい場所での保管は注意が必要。
・PUソールには、軽量・高いクッション性・柔軟性・デザイン性の高さなど、多くのメリットがある。
・近年は加水分解しにくいPUソールをを採用した靴も増えており、素材技術は着実に進歩している。長く履き続けたいなら、加水分解しにくいPUソールを採用し、メーカーでのオールソール修理にも対応している靴を選ぶのがおすすめ。
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